(仮訳)ケン・ローチ:「もし怒りを感じていないとしたら、あなたは一体どんな類の人間なんですか?」②/10

Ken Loach: ‘If you’re not angry, what kind of person are you?’

*留意点*
  • 初めてこのブログを読まれる方は↑TOPメニューの「¿(仮訳)?」も併せてお読みください。
  • 映画等作品名表記について:日本劇場公開作は『』で表記、未公開作は原題を<>で、(DVD等)邦題があるものについては邦題を『』で、ないものは日本語訳を「」で併記しています。
  • 「※」付きの説明は訳者註です。
  • 文中のリンクは「※」付き以外は全て元記事と同じリンクです。

(仮訳)ケン・ローチ:「もし怒りを感じていないとしたら、あなたは一体どんな類の人間なんですか?」①からの続き

色々な意味で、『わたしは、ダニエル・ブレイク』は『キャシー・カム・ホーム』と対をなす作品だとみなされるだろう。『キャシー・カム・ホーム』は1966年の非常に影響力の大きいローチ作品で、若い家族がホームレスに転落してしまう物語だが、この映画により、ホームレス問題は国会の議題にまで上り、一般社会にも広く知られることとなった。しかし、キャシーが実際に社会を変えるに至ったのに対し、ローチはダニエルでは世間は憤慨したりはしないと予想する:名もなき男が国から給付金を巻き上げられたり、シングルマザーがロンドンからニューカッスルまで引越しを余儀なくされたあげく、廃墟同然の家をあてがわれても、別に普通のこととして受け入れられるだろうと言うのだ。

彼はキャシーとダニエル、どちらの世界に居たいと思うのだろうか?「難しい質問ですね。キャシーの世界では、徐々に損なわれつつあったとはいえ、まだ社会保障制度の主たる要素は機能していました。保健局の職員はまだ直接雇用されていましたし。ガスや、電気、水道や鉄道も公営でした(※「公営」と訳した箇所は、直訳すると「私たちが運営していた」という表現)。生活の場として、キャシーの時代の方が気さくで、社会的責任という強い意識が世の中にありました。彼女がホームレスになってしまうのを見て、人々は怒ったのです。今の世の中では団結などというものはどこにもありません。サッチャーとブレアの時代を経て、みんながお互いに対して責任があるとか、誰もがお互いを自分の兄弟姉妹のように見守るといった感覚は蝕まれ消し去られてしまったのです。そういう意味で、キャシーの世界の方が良いと思いますね。」

60年代と70年代には、ローチは小さい左翼グループに属していた:それらは社会主義労働同盟(労働者革命党の前身)、国際社会主義者党、国際マルクス主義者グループなどで、そのどれもが西洋資本主義とソ連型スターリニズムの双方に対し批判的であった。彼らはマルクス主義を貪るように学び、それについて熱心に議論し、耳を傾ける者には誰にでも資本主義が如何に持続不可能であるか、つまり、資本主義とは最終的にそれそのものを食い尽すものであり、その過程で労働者階級も消費され滅ぼされるのだということを説いた。しかし、それらは全て推測でしかなかった。当時は、就労可能な仕事が沢山あり、福祉制度も比較的手厚く、資本主義は実際に申し分なくうまく行っているようにみえていた。
まさに今、ローチによると、彼らが予言していた資本主義の崩壊がやって来ているそうだ。「いかなる危機も労働者階級へより重い負担を課すことになり、さらなる搾取を生むことになるのだと言ってきました。でもそれを理論として言っていただけなのです。誰もゼロ時間契約や派遣労働やフードバンクのことなんて想像だにしなかったのです。慈善事業の食料がなければ飢えてしまうなんてことが許容されて普通のことになるなんて、60年代に誰が考えられたでしょう?こんなことを私たちが今受け入れているなんて異様なことです。」

なぜ資本主義は最終的に、特にグローバル化された世界で、社会を壊すことになるかについて、彼はすばらしく簡潔に説明する:「どんな企業も低価格競争をしてより多く売ろうとしています。それでは利益は減りますから、どこであろうと一番安価な労働力を見つけなければなりません。そうすると資本は決して安定することはないのです。」

それでも、ローチは楽観的だ。「みんな世界がこんな状態のまま続いて行っていいはずないと感じ始めていると思います」彼は言った。「シリザや、ポデモス、アメリカのバーニー・サンダース、そしてジェレミー・コービンの登場を後押しした力が、“another world is possible (もう一つの世界は可能だ)”ということを示しているのです。今こそ本当に物事を変えて行かなければならないという空気があるのです。」

(仮訳)ケン・ローチ:「もし怒りを感じていないとしたら、あなたは一体どんな類の人間なんですか?」③へ続く

※元記事:
https://www.theguardian.com/film/2016/oct/15/ken-laoch-film-i-daniel-blake-kes-cathy-come-home-interview-simon-hattenstone

back to
top