Labour under Corbyn the only way out of Britain's 'morass' says Ken Loach
ケン・ローチは半隠遁生活から帰ってきた。『わたしは、ダニエル・ブレイク』で現行の社会保障制度を鋭く告発するために。『キャシー・カム・ホーム』や『ケス』、『麦の穂をゆらす風』といった称賛の絶えないドラマを作った名匠は、現在の労働党党首に希望を見出していると、ケイト・ホワイティングに語った。
ケン・ローチは使命を背負っている。それはすなわち、人々に自分達が生きている世界に対して疑問をもたせるということだ。最新作の『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、5月にカンヌ映画祭で栄誉あるパルムドールを受賞したが、映画の中ではフードバンクのシーンがあり、その外では実際にフードバンクの利用者が順番待ちの行列を作っているのだ。
ここでちょっと考えてほしい。あなたがビスケットの箱を寄付用の箱に入れた時、どうしてフードバンクというものがこの世にあるのか、またそのビスケットが最終的にどうなるのか考えたことはあるだろうか?それともチャリティーの寄付にどんどん頼る社会になることの方が、国が困窮する人が食べられるようにすることより当たり前だと思っているのだろうか?
「フードバンクが増えていることは耐えがたいことです。まったく受け入れがたい。」6月に80歳になった監督がやわらかい口調で言う。「昨年110万箱分の食料支援物資が配給されました。その内40万箱以上が子供たちに食べさせるためだったのです。50万人近い子供たちがチャリティーを通じて食事をとっているのです。」
『わたしは、ダニエル・ブレイク』ではデイヴ・ジョーンズ演じる映画のタイトルとなった主人公は59歳で、ニューカッスルの建具職人として人生のほぼ全てを過ごしてきた。心臓発作で足場から落ちそうになった後、就労不能とされ、初めて国からの給付金に頼らざるを得なくなる。
これは真心とユーモアに満ちた映画だが、同時にイギリスの給付金制度の隙間からこぼれ落ちてしまった人々の荒涼とした人生を描いている。
2014年のアイルランドを舞台にした映画『ジミー、野を駆ける伝説』(ローチは2006年にアイルランド内戦を描いた『麦の穂をゆらす風』も監督している)は彼の最後の映画と伝えられていたが、『わたしは、ダニエル・ブレイク』製作への思いはとても強く、引退を撤回したのだ。
本当のところはどうであれ、やむにやまれぬ事情の下、彼は脚本家ポール・ラヴァティと再びチームを組む決意をしたのだ。
「ポールと私はいつも話し合い意見交換しています。そんな中、2人共がとても気になる事があったのです。それは社会保障制度が如何に衰退し変わり果て人々に屈辱を与えるために利用されているかということです。それで私たちはこの件について調べてみることにしました。私たちはイングランド内の6つか7つの都市をまわりましたが、偶然にも、どこでも同じような話が出てきました。取材最初の日に私の地元の町(ナニートン)に行ったのですが、そこで私とちょっと関わりのある慈善団体が何人か紹介してくれたのです。
「最初に会ったのは若者です。19歳の。彼は住宅手当をもらっていて働こうとしていました。不定期の闇の仕事を少しだけもらっては、僅かな現金を稼ぐということを繰り返していました。」
「彼の部屋へ行きましたが、床の上に直接マットレスが敷かれ、あとは冷蔵庫がありました。ポールが『冷蔵庫の中に何があるか見せてもらっても良い?』と訊くと、彼は冷蔵庫のドアを開けましたが、何も入っていませんでした。ポールが『お腹減ってるんでしょ?』と訊くと、彼は『うん』と言いました。その前の週、彼は3日間何も食べていなかったのです。彼は普通の19歳の若者なんですよ。明らかに彼は家で何かトラブルがあって、どんな家族かはわかりませんが、自分の家族と別れてしまった。でも彼はいつでも働ける状態だったのです。初日はそんなふうでした。その後同じような話を次々に聞いたのです。」
私たちが会う前日にロンドンで先行上映会で行われ、そこでは、給付金制度にがんじがらめになっているうちに亡くなった人々の写真が貼られた横断幕を掲げたグループがいた。
「彼らはこれらの人々の死は給付金停止の制裁を受け無一文になったことが原因だといっているのです。自殺する人たちがいるんですよ。」ローチは言う。
また、この「人民の先行上映会」にはジェレミー・コービンも出席した。ローチとは「旧知の仲」だ。
要するに、この映画作家はこの問題の多い労働党党首こそがイギリスが陥ってしまった窮地から抜け出すための答えだというのだ。
「私には、この泥沼から抜け出るただ一つの道はジェレミー・コービンの率いる労働党しかないように思えます。彼らは給付資格審査を廃止し、給付停止制裁制度そのものを見直すと言っています」とローチは言う。「でも、もっと具体的には、雇用、産業や工業での本物の仕事を生み出すための公共投資を、イングランド北東部やその他の地域のように仕事がなく荒廃してしまった地域に対してやっていくと言っているのです。」
「誰だって社会に貢献しなければいけませんし、誰だってそれに見合った適正な賃金、つまり、生活ができて、家が買えて、家族を持ち子供たちを育て、かつてのように尊厳を持って暮らせるに足りる賃金を受け取らなければならないのです。それ以外は一時しのぎにすぎません。」
「間違いなく、ブレアとブラウンが率いた頃の労働党はそのことに対し無策でした。彼らはああいった地域が衰退していくのにまかせたのです。雇用主が蛇口をひねるように自由自在に仕事の有無を決められるゼロ時間契約や派遣労働で、弱い立場の労働者から利益を得ることができない限り、ビジネスはそんな場所へは行ったりしないのです。」
ローチの、影響力の大きい「社会派リアリズム」ドラマ『キャシー・カム・ホーム』は、ある家族が貧困に陥る様を追った物語だが、そのBBC 1での初回放送から50年経つ。
1966年11月に1200万人―イギリスの当時の人口の4分の1に相当―が観たその作品は、ホームレスや失業といった問題はそれまで一切議論されることがなかったため、観る者に衝撃を与えた。その衝撃はあまりに大きく、翌年には慈善団体「クライシス」(※)が設立された。
ローチは「キャシーの頃の方がまだ良かった」、なぜなら、当時の方が世界は「もっと気さくで、社会的責任という強い意識があった」からだと言う。
彼と妻のレスリーには10人の孫がいる(「もう少しでサッカーチームができる」)―そして孫達の将来を心配しているのだという。
「10人もいると、あの子たちみんなが何事もなく無事やっていけるかどうかなんて予測できません。みんながみんな仕事や住処を見つけられるか、我々が望むように彼ら全員がやっていけるかなんて。まったくわからないのです。」
「どうしたって、彼らはテストで最高点を取るために努力しなければならないような競争主義のやり方を強制されます。それが彼らが生きる世界だからです。でもそれが成功への唯一の道ではありません。素敵な人なのにテストの点が良くなかったら苦難の道が待ってるなんて。なんで苦しまないといけないんですか?みんながそれぞれの場所でそれぞれに貢献をする、そうすればみんながお互いを大切にしたくなりますよ。」
「『子供はみんな等しく扱われるべきだ』と私たちが言えないから、分断を生む教育制度を残し、多くの地域が誰も何もすることがない状態で放置されたままなのです。」
ローチは『わたしは、ダニエル・ブレイク』を観た人に、「自分の目で世界を見て」それから「大きな疑問」を投げかけてほしいと言う。「どうして私たちはこんな風に暮らしているんだろう?なんで政府はあんな態度を取るんだろう?」というように。
今後については、次回作を作るかどうかまだわからないという。
「ポールと私はいつも何かについて話はしてます。でも私にもう一作できるかというと・・・妻も私がいつも家を空けていることにうんざりしているし、作るかどうかはわからないかな」ローチは言う。
「もうちょっと様子をみてみないと。」
※元記事:
http://www.irishnews.com/arts/2016/10/26/news/labour-under-corbyn-the-only-way-out-of-britain-s-morass-says-ken-loach-754574/
ケン・ローチは半隠遁生活から帰ってきた。『わたしは、ダニエル・ブレイク』で現行の社会保障制度を鋭く告発するために。『キャシー・カム・ホーム』や『ケス』、『麦の穂をゆらす風』といった称賛の絶えないドラマを作った名匠は、現在の労働党党首に希望を見出していると、ケイト・ホワイティングに語った。
ケン・ローチは使命を背負っている。それはすなわち、人々に自分達が生きている世界に対して疑問をもたせるということだ。最新作の『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、5月にカンヌ映画祭で栄誉あるパルムドールを受賞したが、映画の中ではフードバンクのシーンがあり、その外では実際にフードバンクの利用者が順番待ちの行列を作っているのだ。
ここでちょっと考えてほしい。あなたがビスケットの箱を寄付用の箱に入れた時、どうしてフードバンクというものがこの世にあるのか、またそのビスケットが最終的にどうなるのか考えたことはあるだろうか?それともチャリティーの寄付にどんどん頼る社会になることの方が、国が困窮する人が食べられるようにすることより当たり前だと思っているのだろうか?
「フードバンクが増えていることは耐えがたいことです。まったく受け入れがたい。」6月に80歳になった監督がやわらかい口調で言う。「昨年110万箱分の食料支援物資が配給されました。その内40万箱以上が子供たちに食べさせるためだったのです。50万人近い子供たちがチャリティーを通じて食事をとっているのです。」
『わたしは、ダニエル・ブレイク』ではデイヴ・ジョーンズ演じる映画のタイトルとなった主人公は59歳で、ニューカッスルの建具職人として人生のほぼ全てを過ごしてきた。心臓発作で足場から落ちそうになった後、就労不能とされ、初めて国からの給付金に頼らざるを得なくなる。
これは真心とユーモアに満ちた映画だが、同時にイギリスの給付金制度の隙間からこぼれ落ちてしまった人々の荒涼とした人生を描いている。
2014年のアイルランドを舞台にした映画『ジミー、野を駆ける伝説』(ローチは2006年にアイルランド内戦を描いた『麦の穂をゆらす風』も監督している)は彼の最後の映画と伝えられていたが、『わたしは、ダニエル・ブレイク』製作への思いはとても強く、引退を撤回したのだ。
本当のところはどうであれ、やむにやまれぬ事情の下、彼は脚本家ポール・ラヴァティと再びチームを組む決意をしたのだ。
「ポールと私はいつも話し合い意見交換しています。そんな中、2人共がとても気になる事があったのです。それは社会保障制度が如何に衰退し変わり果て人々に屈辱を与えるために利用されているかということです。それで私たちはこの件について調べてみることにしました。私たちはイングランド内の6つか7つの都市をまわりましたが、偶然にも、どこでも同じような話が出てきました。取材最初の日に私の地元の町(ナニートン)に行ったのですが、そこで私とちょっと関わりのある慈善団体が何人か紹介してくれたのです。
「最初に会ったのは若者です。19歳の。彼は住宅手当をもらっていて働こうとしていました。不定期の闇の仕事を少しだけもらっては、僅かな現金を稼ぐということを繰り返していました。」
「彼の部屋へ行きましたが、床の上に直接マットレスが敷かれ、あとは冷蔵庫がありました。ポールが『冷蔵庫の中に何があるか見せてもらっても良い?』と訊くと、彼は冷蔵庫のドアを開けましたが、何も入っていませんでした。ポールが『お腹減ってるんでしょ?』と訊くと、彼は『うん』と言いました。その前の週、彼は3日間何も食べていなかったのです。彼は普通の19歳の若者なんですよ。明らかに彼は家で何かトラブルがあって、どんな家族かはわかりませんが、自分の家族と別れてしまった。でも彼はいつでも働ける状態だったのです。初日はそんなふうでした。その後同じような話を次々に聞いたのです。」
私たちが会う前日にロンドンで先行上映会で行われ、そこでは、給付金制度にがんじがらめになっているうちに亡くなった人々の写真が貼られた横断幕を掲げたグループがいた。
「彼らはこれらの人々の死は給付金停止の制裁を受け無一文になったことが原因だといっているのです。自殺する人たちがいるんですよ。」ローチは言う。
※先行上映会の様子(全て@idanielblakeツイッターより)①
Celebrate the “utter relevance” of I, Daniel Blake this evening as we keep you up to date with all the red carpet news. #WeAreAllDanielBlake pic.twitter.com/13rDfYITkC— I, Daniel Blake (@idanielblake) 2016年10月18日
※先行上映会の様子②デイヴ・ジョーンズ(左)とヘイリー・スクワイアーズ(右)
Our leads have arrived! The brilliant @davejohnscomic and @hayleySsquires at the premiere for I, Daniel Blake. #WeAreAllDanielBlake pic.twitter.com/d5q0WHiCd1— I, Daniel Blake (@idanielblake) 2016年10月18日
※先行上映会の様子③ケン・ローチ(左)とポール・ラヴァティ(右)
(亡くなった人たちの横断幕と共に)
The most influential double act there is. @KenLoachSixteen and Paul Laverty are here at the I, Daniel Blake premiere. #WeAreAllDanielBlake pic.twitter.com/d3RvIQvxkX— I, Daniel Blake (@idanielblake) 2016年10月18日
また、この「人民の先行上映会」にはジェレミー・コービンも出席した。ローチとは「旧知の仲」だ。
要するに、この映画作家はこの問題の多い労働党党首こそがイギリスが陥ってしまった窮地から抜け出すための答えだというのだ。
「私には、この泥沼から抜け出るただ一つの道はジェレミー・コービンの率いる労働党しかないように思えます。彼らは給付資格審査を廃止し、給付停止制裁制度そのものを見直すと言っています」とローチは言う。「でも、もっと具体的には、雇用、産業や工業での本物の仕事を生み出すための公共投資を、イングランド北東部やその他の地域のように仕事がなく荒廃してしまった地域に対してやっていくと言っているのです。」
※先行上映会の様子④ジェレミー・コービン
He may be leader of the Labour Party but @jeremycorbyn has taken the time out to show his support for I, Daniel Blake. #WeAreAllDanielBlake pic.twitter.com/FTyWvlHRl3— I, Daniel Blake (@idanielblake) 2016年10月18日
「誰だって社会に貢献しなければいけませんし、誰だってそれに見合った適正な賃金、つまり、生活ができて、家が買えて、家族を持ち子供たちを育て、かつてのように尊厳を持って暮らせるに足りる賃金を受け取らなければならないのです。それ以外は一時しのぎにすぎません。」
「間違いなく、ブレアとブラウンが率いた頃の労働党はそのことに対し無策でした。彼らはああいった地域が衰退していくのにまかせたのです。雇用主が蛇口をひねるように自由自在に仕事の有無を決められるゼロ時間契約や派遣労働で、弱い立場の労働者から利益を得ることができない限り、ビジネスはそんな場所へは行ったりしないのです。」
ローチの、影響力の大きい「社会派リアリズム」ドラマ『キャシー・カム・ホーム』は、ある家族が貧困に陥る様を追った物語だが、そのBBC 1での初回放送から50年経つ。
1966年11月に1200万人―イギリスの当時の人口の4分の1に相当―が観たその作品は、ホームレスや失業といった問題はそれまで一切議論されることがなかったため、観る者に衝撃を与えた。その衝撃はあまりに大きく、翌年には慈善団体「クライシス」(※)が設立された。
ローチは「キャシーの頃の方がまだ良かった」、なぜなら、当時の方が世界は「もっと気さくで、社会的責任という強い意識があった」からだと言う。
彼と妻のレスリーには10人の孫がいる(「もう少しでサッカーチームができる」)―そして孫達の将来を心配しているのだという。
「10人もいると、あの子たちみんなが何事もなく無事やっていけるかどうかなんて予測できません。みんながみんな仕事や住処を見つけられるか、我々が望むように彼ら全員がやっていけるかなんて。まったくわからないのです。」
「どうしたって、彼らはテストで最高点を取るために努力しなければならないような競争主義のやり方を強制されます。それが彼らが生きる世界だからです。でもそれが成功への唯一の道ではありません。素敵な人なのにテストの点が良くなかったら苦難の道が待ってるなんて。なんで苦しまないといけないんですか?みんながそれぞれの場所でそれぞれに貢献をする、そうすればみんながお互いを大切にしたくなりますよ。」
「『子供はみんな等しく扱われるべきだ』と私たちが言えないから、分断を生む教育制度を残し、多くの地域が誰も何もすることがない状態で放置されたままなのです。」
ローチは『わたしは、ダニエル・ブレイク』を観た人に、「自分の目で世界を見て」それから「大きな疑問」を投げかけてほしいと言う。「どうして私たちはこんな風に暮らしているんだろう?なんで政府はあんな態度を取るんだろう?」というように。
今後については、次回作を作るかどうかまだわからないという。
「ポールと私はいつも何かについて話はしてます。でも私にもう一作できるかというと・・・妻も私がいつも家を空けていることにうんざりしているし、作るかどうかはわからないかな」ローチは言う。
「もうちょっと様子をみてみないと。」
※元記事:
http://www.irishnews.com/arts/2016/10/26/news/labour-under-corbyn-the-only-way-out-of-britain-s-morass-says-ken-loach-754574/