"Sorry We Missed You" 『家族を想うとき』 2019年カンヌ国際映画祭記者会見 ②/7

登壇者(発言時表記): ケン・ローチ(KL) / レベッカ・オブライエン(ROB) / ポール・ラヴァティ(PL) / クリス・ヒッチェン(KH) / デビー・ハニーウッド(DH) / リース・ストーン(RS) / ケイティ・プロクター(KP)

SORRY WE MISSED YOU - Press conference - Cannes 2019
with Henry Béhar moderator / Rebecca O’Brien producer / Rhys Stone actor / Katie Proctor actress / Kris Hitchen actor / Ken Loach director / Debbie Honeywood actress / Paul Laverty screenplay / Robbie Ryan cinematography

*留意点*
  • 初めてこのブログを読まれる方は↑TOPメニューの「¿(仮訳)?」も併せてお読みください。
  • 今回は記事の翻訳ではなく、記者会見の動画(音声)聞き起こし→粗訳という形になり、聞き起こしの時点で拾いきれない言葉もあり、より意訳傾向が強くなっています。そのため、タイトルにも「(仮訳)」をつけませんでした。(もう少し細かい話が気になる方は→こちら
  • ()内は訳者註です。また、質問者、その他用語についての参考リンク等がある場合は「☆」で表記しています。
  • "struggle"という単語(動詞/名詞)が繰り返し使われていますが、和訳では文脈で言葉を変えているため、元の単語がそれとわかるよう「★」をつけています。
  • 特に聞き取りに自信のない箇所については「*」と共にその旨記載しています。
  • 各埋め込み動画は該当箇所から始まるよう頭出ししたものです。
Sorry We Missed You" 『家族を想うとき』
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10:00

司会: イバートさん。

質問者Chaz Ebart: おはようございます。『シカゴ・サン-タイムズ』(Chicago Sun-Times)とRogerEbert.com()のチャズ・イバートです。私はプロフェッショナルとして仕事をしていますが、あなた方の作品について語るときには感情的にもなってしまいます。私の亡くなった夫ロジャー・イバートはあなた方の作品の熱烈な支持者でしたので。

(会場拍手)

Chaz Ebart: ありがとうございます。この映画では、あなた方の映画全てがそうですが、特にこの映画では宅配ドライバーの真の暮らしぶりというものをとてもきめ細かく描かれていると思います。労働者階級の男性がなんとか家族を養おうと奮闘する(★)姿や本物の家族の生活を見せています。適当にピックアップした場面などではなく。どういった過程を経て、そもそも何故この主題を選んだのでしょうか?そして、これは多分ローチさんとポールさんへの質問ですが、反抗的な息子、(父と兄の)対立の間で苦しむ娘、そして必死に家族を繋ぎとめようとする妻という家族の葛藤を主題にしようと決めたのか教えてください。本当に美しい映画です。大好きです。 

KL: どうもありがとうございます。そしてあなたのお連れ合いにも敬意を表したいと思います。とても素敵な方で素晴らしい批評家でした。ですから(連帯の拳をあげながら)あなたにお会いできて光栄です。
 まず、ポールと私とレベッカで仕事というものの問題について話しました。つまり「仕事」というものが如何に様変わりしてしまったかということです。私が若かった頃やその暫く後までは、技術や技能を持っていれば一生の生業とできる仕事を得ることができるといわれていました。そしてその稼ぎで家族を持ち、養うことができたのです。
 ところが、この安定(雇用)が不安定(雇用)へ容赦なく変化してしまいました。当日通知だけで雇われたり解雇されたりしますし、雇用主は何の責任も負わず、業務量や勤務時間、賃金について何も明らかにされない契約で働かせるのです。派遣業者を通した仕事もなんの保障もありません。それから映画の中でクリスが演じたような所謂個人事業主という名の労働者は全てのリスクを背負わされます。雇用主はなんのリスクも負わないという幸運な立場にいて、労働者は自分自身を犠牲にせざるを得ないということになります。つまり大企業にとってこの上ない状況なのです。彼らには何のリスクもなく、労働者は誰に指図を受けるでもなく、へとへとになるまで働かざるを得ないのです。「鞭を持って仕事を強要する怖いボス」はいないのです。これが現実に起こった情け容赦のない変化です。そしてこれは資本主義が失敗したということではなく、資本主義が資本主義としていつものように機能しているということなのです。
 私たちがこの件について話したとき、最初にポールがこのことが家族関係にどう影響を及ぼすかということ、どう家族の選択肢や関係性を決定づけていくのかということを話しました。それから私たちはさらに話し合い、実際に色んな人々にも会いました。その時点でリサーチはポールが殆どやってましたけど。ポールがメインの登場人物像をざっと描いて、それからまたみんなで話して練り上げていきました。ポールからも話した方がいいね。

13:49

PL: 質問をありがとうございます。(その前に)さっさと済ませますので、ちょっとだけ言わせてください。今日ここに私たちと一緒に素晴らしい撮影監督ロビー・ライアンもいてくれてとても嬉しいんです。彼はすごい仕事をしました。あちらの隅っこに隠れていますけど。そのことだけ言いたかったんです。

(会場拍手)

KL: これも言わせてください。彼はうちのチームで一番おしゃれなんですよ!ロビー立って!

(会場拍手)

PL: ありがとうございます。本当にとても興味深い質問です。あなたのお察し通り、これは家族を描いた話ではありますが、権力は決して抽象的なものではなく、実際には結果を伴います。
 あなたの質問はとても興味深いと思います。うわべではなく、その下に隠れているのは何かということだと思いますが、この件についての話を始めたのは2年前だったと思います。その時、最も注目を浴びていた大きな問題は気候変動でした。今や当時よりもっと重要な問題になっていますが。そして気候変動と関連する問題として不平等の問題があります。
 ちょうど3日前に、プリンストン大学で教鞭をとり、ノーベル経済学賞受賞者でもあるアンガス・ディートン卿()が「イギリスは極端な不平等化という点でアメリカと同じ道を辿っており、ゆくゆくはその報いをうけるだろう」と言っていました。その指摘にあったのは、高等教育を受けていないアメリカ人の実質賃金は過去50年間で全く上がっていない、つまり状況はどんどん悪くなっているということです。これは本当に重大な事態で、直近の3年だけをみても、アメリカの平均寿命は低下しているのです。これは過去100年間で初めてのことなのです。
 そして同じことが今イギリスで起こっています。ここからわかるのは、とてつもない富の集中があり、とてつもない搾取が行われているということです。あるちょっとした話を少しさせてください、さっとすませますから。 

15:33

PL: 私たちが話し合った色々なことについてはもう学術的にも研究されていますが、私がアマゾンの宅配ドライバーに会った時のことを話させてください。私たちは何人かと会ったのですが、その時にあるドライバーが話をしてくれたのです。本当にその話はひどいものでした。あのいかさまなややこしい機械にサインインするために2時間前から待機駐車場でまだかまだかと待たないといけないというのです。 そしてさらに何に驚いたかというと、話をしてくれた彼の眼や肌の色です。血の気のない灰色の肌の色で、目は真っ赤に充血していました。完全に疲労困憊していたのです。
 そして彼と話をした2時間の後に、、、全くの偶然ですが、まさにその日にアマゾンの株価に変動があったのです。ちょっと不思議な1日でした。偶然にもその日に、株価が急上昇したためにジェフ・ベゾス氏は世界一の富豪になったのです。私が持っていた新聞にはベゾス氏の写真が載っていました。そして彼(ドライバー)と話し終わった後、その新聞を渡して彼とそれを見たのですが、彼は口をあんぐりと開けて愕然としていました。
 その時、彼は自分が世界中にいる無数の宅配ドライバーの1人なのだと気づいたのです。彼らは一滴の水のような存在で、それが集まって川になって、、、いや「アマゾン」って上手い名前ですよね?この名前でピンと来て頭に浮かんだんです。この1人1人のドライバーが一滴の水で小さな流れになって、その川がどんどん合流してアマゾン河になる。そしてその入り江にはジェフ・ベゾスの大きな口が待っていて、全ての利益を吸い上げているんです。まさにこれが実際に起こっていることなのです。漫画家だったら漫画ですぐ描けるでしょう。
 そういったわけで、私は、人々から最大限の富を得るためにどのようにテクノロジーが使われているかが分かるように、宅配ドライバーの物語にしよう、と提案したのです。

17:03

PL: そしてもう1つの質問ですが、勿論、コミュニティーのお年寄りの世話をするというのは最も重要な仕事なのですが、繰り返しますが、ここでも下請け契約の不安定雇用とゼロ時間契約といった問題が出てきます。私たちの生活においてとても大きな2つの異なる問題が1つの家族に影響を及ぼしていくのです。そして、そもそも仕事というものは家族の面倒をみるためのものだったはずですが、現実に多くの人々の身に起こっていることは、仕事が愛する人と過ごす時間を奪っているということです。まったく狂った話なのですが、これは自由市場の論理的帰結なのです。

KL: んふふふ

(会場拍手)


"Sorry We Missed You" 『家族を想うとき』
2019年カンヌ国際映画祭記者会見 ③へ続く



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