"Sorry We Missed You" 『家族を想うとき』 2019年カンヌ国際映画祭記者会見 ③/7

登壇者(発言時表記): ケン・ローチ(KL) / レベッカ・オブライエン(ROB) / ポール・ラヴァティ(PL) / クリス・ヒッチェン(KH) / デビー・ハニーウッド(DH) / リース・ストーン(RS) / ケイティ・プロクター(KP)

SORRY WE MISSED YOU - Press conference - Cannes 2019
with Henry Béhar moderator / Rebecca O’Brien producer / Rhys Stone actor / Katie Proctor actress / Kris Hitchen actor / Ken Loach director / Debbie Honeywood actress / Paul Laverty screenplay / Robbie Ryan cinematography

*留意点*
  • 初めてこのブログを読まれる方は↑TOPメニューの「¿(仮訳)?」も併せてお読みください。
  • 今回は記事の翻訳ではなく、記者会見の動画(音声)聞き起こし→粗訳という形になり、聞き起こしの時点で拾いきれない言葉もあり、より意訳傾向が強くなっています。そのため、タイトルにも「(仮訳)」をつけませんでした。(もう少し細かい話が気になる方は→こちら
  • ()内は訳者註です。また、質問者、その他用語についての参考リンク等がある場合は「☆」で表記しています。
  • "struggle"という単語(動詞/名詞)が繰り返し使われていますが、和訳では文脈で言葉を変えているため、元の単語がそれとわかるよう「★」をつけています。
  • 特に聞き取りに自信のない箇所については「*」と共にその旨記載しています。
  • 各埋め込み動画は該当箇所から始まるよう頭出ししたものです。
Sorry We Missed You" 『家族を想うとき』
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17:40

質問者Ninos Mikelidis: ギリシャから来ましたニノス・ミケリディスです。本当に感動的で力強い映画を作られたことにお祝いを申し上げます。脚本も演出も現実に忠実で、映画の中で出演者のみなさんと共に生きているような感覚になりました。
 私の質問ですが、この安定性や安全性の喪失、失業、緊縮というもの、ロンドンやイングランドでも起こっていて、南ヨーロッパ、ギリシャやポルトガルやスペインなどではもっと状況は悪いわけですが、あなたが映画で描いたこの暗黒のイメージはまだ続くと思いますか?それとも何か変化がすぐ訪れると思いますか?例えばイングランドでなにか変化の兆候はありますか?わたしは悪くなると思っていますが、どう思われますか?この新自由主義と銀行や大企業による搾取を止める変化が起こる前にどんどん悪くなるというかんじがするのですが。お2人に。

司会: どうぞケンさん。

KL: とても重要な質問ですね。ギリシャの人々は他の誰よりもそのことをずっと感じていますよね。辛抱強く闘って(★)いらっしゃるギリシャの皆さんに心から敬意を表します。
 ギリシャが直面している問題に対するEUのやり方はひどいものです。でも、私たちが構造的な変革を起こさない限り、この状況は続くと思います。大企業が経済上の覇権争いを続けている限り、彼らがそれをどうやるかというと、よりよいサービスや商品を最低価格で提供するという形になります。最低価格は賃金カットによって実現します。つまりそれは、弱体化された労働組合や非正規や不安定雇用の労働者など、私たちが話してきた様々な問題のことで、そういったことによって、労働者階級はとても弱い存在になってしまいました。水道の蛇口をひねって水を出したり止めたりするように好き勝手に操られる存在になってしまったのです。それは構造的なことなのです。
 私たちは「偽左翼 (fake left)」と呼んでいますが、この偽左翼の政治家たち、例えばエド・ミリバンドやその前任者たち、ブレアなんてここで名前を出すまでもないですが、彼らは「思いやりのある資本主義(caring capitalism)」などという神話の中の獣について語っていましたが、そんなものは誰もが話はするけれど見たことがないわけです。どこにいるんですか?そんなものいるわけないんです。もしもみんなが自由市場というものを信じるのなら、大企業が権力を持つことになりますし、最低賃金を争う価格競争になって、不安定雇用につながっていくのです。この結果は避けられないんです。ですから、私たちが社会の根本的な構造を立て直さない限り変わることはないでしょう。ちょっと挑戦的に聞こえるかもしれませんけど。
 イギリスでのここ数年で、地平線のむこうに見える唯一の光といえるのは、左派政党を左派が主導するようになったことです。労働党のジェレミー・コービンとジョン・マクドネルのことですが。彼らは資本の権力を削いで私たちの手に取り戻すと約束しました。すると、彼らに対して凄まじい攻撃と中傷が起こったのです。そしてそれはどんどんひどくなる一方です。チリのアジェンデ政権に何が起こったかご存じですよね?ニカラグアのサンディニスタ、この件はポールが良く知ってますが、これらのような左派のグループに何が起こったのかも。
 安全な労働環境の実現のためには権力のバランスを変えなければなりませんし、権力を人々の手に取り戻さないといけませんが、そのために資本家の権力の弱体化に真剣に取り組んだら、過去に例をみないほどの激しい攻撃にさらされるのです。そしてそれは、政治的とはいえない、表には見えない裏の部分での中傷の嵐という形でもやってきます。こういった攻撃にも拘らず、英労働党は党員を20万人未満から50万人以上に増やし欧州で最も大きな政党となりました。ですから、欧州左派の一員として成功の可能性はあると思います。私にとってはこれが一縷の望みです。でも彼らをちゃんと守っていかなければなりませんし国際的連帯が必要なのです。本当に初めての、初めての「春の予感」なのです。どうか注視し続けてください。そして彼らを応援してください。

22:17

PL: ニノスさん、あなたの質問はこの映画の終わりの方の、病院でデビーがすべてのリスクを負ってしまった自分のパートナーを見つめるシーンに良く表れていると思います。私はそういう宅配ドライバーに沢山会いました。彼らは怪我や痛みを抱えたまま仕事に戻るんです。映画(のセリフ)にもありましたが、こんなことがまかり通っていいんでしょうか?
 「大きな物語」の語り部たち(支配層)も、今や富の集中を恐れています。ダボス会議ですらそれを恐るべき問題としていました。世界経済フォーラムですら、不平等の問題は彼らにとって危険であると言っているのです。富の集中というものは人々をどんどん脆弱にしていきます。だからこんなに移民や自分より弱い立場の人々(*「移民」以外は聞き取り曖昧)を責める嘘がはびこるのです。誰も大企業の権力のことを見てはいないのです。だからとても脆いのです。 
 政治的意志という面についても、例えばオックスファム(Oxfam)は全く急進的な組織ではありませんが、たった1%の富裕税が4350億(ドル?)に相当し、それがあれば全世界の子供の教育問題が解決すると報告しています。でもその報告すらビジネス業界に対する攻撃とみなされるのです。ですから私たちはこの「大きな物語」を変えなければなりません。彼らは本当に上手いんです、「アウトソーシング」や「オンボーディング」、「フランチャイズの個人事業主」、「闘士」、「社内企業家」、「自由」、「効率性」といった言葉を使って自分たちの物語を巧妙に語り、労働者を責め労働者が重荷を背負うのです。でもそれは儚いものです。そんな現実は儚いものですから。
 人々は怒っています。怒り狂っています。ですから私たちは現状を分析し、創造的にならなければなりません。実際にどこに権力があるのかを見極めそこに立ち向かわなければなりません。非常に大きな挑戦です。

KL: うんうん。


"Sorry We Missed You" 『家族を想うとき』
2019年カンヌ国際映画祭記者会見 ④へ続く


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