"Sorry We Missed You" 『家族を想うとき』 2019年カンヌ国際映画祭記者会見 ⑤/7 (※ネタバレ有)

登壇者(発言時表記): ケン・ローチ(KL) / レベッカ・オブライエン(ROB) / ポール・ラヴァティ(PL) / クリス・ヒッチェン(KH) / デビー・ハニーウッド(DH) / リース・ストーン(RS) / ケイティ・プロクター(KP)

SORRY WE MISSED YOU - Press conference - Cannes 2019
with Henry Béhar moderator / Rebecca O’Brien producer / Rhys Stone actor / Katie Proctor actress / Kris Hitchen actor / Ken Loach director / Debbie Honeywood actress / Paul Laverty screenplay / Robbie Ryan cinematography

*留意点*
  • 初めてこのブログを読まれる方は↑TOPメニューの「¿(仮訳)?」も併せてお読みください。
  • 今回は記事の翻訳ではなく、記者会見の動画(音声)聞き起こし→粗訳という形になり、聞き起こしの時点で拾いきれない言葉もあり、より意訳傾向が強くなっています。そのため、タイトルにも「(仮訳)」をつけませんでした。(もう少し細かい話が気になる方は→こちら
  • ()内は訳者註です。また、質問者、その他用語についての参考リンク等がある場合は「☆」で表記しています。
  • "struggle"という単語(動詞/名詞)が繰り返し使われていますが、和訳では文脈で言葉を変えているため、元の単語がそれとわかるよう「★」をつけています。
  • 特に聞き取りに自信のない箇所については「*」と共にその旨記載しています。
  • 各埋め込み動画は該当箇所から始まるよう頭出ししたものです。
※※この投稿はネタバレを含みます!!※※
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"Sorry We Missed You" 『家族を想うとき』
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Sorry We Missed You" 『家族を想うとき』
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(会見中唯一の仏語質問者が話し始めるも、登壇者の同時通訳イヤホン装着が間に合わず一時中断→仕切り直し) 
28:34

質問者 Béatrice: フランス・モンペリエから来ましたベアトリスです。今日家族の皆さんがここに勢ぞろいされているのを見てとてもうれしく思っています。私の質問は映画の実際の映像についてです。ケン・ローチさん、あなたは人々のことが本当にお好きですよね。あなたの映画を観るとそれは明らかです。
 映画の最初のシーンは不穏な雰囲気です。登場人物の声は聞こえるのに姿が見えない。それは意図があっておやりになったのだと思いますが、私の理解が合っていると良いのですが。そして次に2人が小さな部屋にいることが分かります。窓はあるけれど格子がついています。ですので、明らかにこの人物がなにか悪い方向へスタートを切ろうとしているように見えます。彼の姿はまだ見えませんが、それと同時に彼は最早自由ではないということがわかります。そして私は映画の最後の映像についても注目したいのですが、これもとても興味深いシーンです。主人公は彼のバンの中でたった1人でいます。それはまるで小宇宙のようですが、そこで彼は泣いています。彼が泣くのは初めてです。

司会: 質問は何ですか?

Béatrice: これが質問なのです。この涙は彼を救うためのものですか?涙を流すことによって彼は救われたのでしょうか?

司会: 私をみないで!

(会場笑い)

KL: すみません。フランス語で答えられたら良いのですができないんです。 最初のシーンで映像がなく音声だけなのは、彼(主人公)が自分の職歴について話しているんですが、そこに出てくる数々の仕事が多くの人に当てはまり、特定の誰かの話ではないということを示すためです。観客の多くが建設現場で働いたことがあるかもしれないし、肉体労働の経験があるかもしれません。多分人口の半分位の人はそういった職歴を履歴書に書いたことがあると思うんです。ですから、まず特定の個人の話の前に、ごく一般的な話なのだということを示すためにやりました。
 面接の行われている部屋は工業団地地区によくある部屋です。窓の外にはバンが並んでいるのが見えるでしょう。 
 それから、実際には、最後のシーンより前にリッキーは泣いています。ライザが彼のバンの鍵を自分が隠したと告白したときに心を揺さぶられて。それはそうとして、最後のシーンについては、彼は自分の車の中に囚われてしまっているのです。どこにも逃げ場はないのです。彼は借金漬けで、仕事に行かなければさらなる借金を負うことになります。出口はないのです。罠にはまってしまったのです。このシステムが彼を罠にかけたのです。ポールが言ったように。ポールは沢山の人々に会い、ポールを通じて私も会いました。彼らは手足を骨折しても働くのです。足を骨折しても腕を骨折しても運転するのです。
 ぞっとする実話があります。仕事を休めず病院での診察の予約に行けなかった糖尿病の男性の話です。糖尿病はどんどん悪化しますが、次の予約もその次の予約にも行けませんでした。そして彼は亡くなったのです。彼の死は彼が仕事を休めなかったことが直接の原因です。借金のせいで、経済的な問題で命を落としたのです。このシステムに殺されたのです。出口はありません。必然的にこうなるのです。ですからリッキーは罠にはまってしまうのです。これが現実なのです。

32:32

PL: 彼(糖尿病で亡くなった人)の名前はドン・レーン(日本語記事/英語記事)と言います。彼には吐血やあらゆる問題のある症状がありそれを(雇用側は)全てわかっていたのです。糖尿病と診断されていたのですから。彼は150ポンドの罰金を恐れて休みをとることすらできなかったのです。
 質問をありがとうございます。この件についてクリスに訊きたいんです、今まで訊くチャンスがなかったので。彼女のフランス語の質問の通訳聞こえなかったでしょ?

KH: いや大丈夫。

PL: ああ聞こえてた?でもまあ是非訊きたいな。あのシーンの演技すごく良かったし。だからクリスがあのシーンのことをどういう風に思ってたかをもし覚えてたら訊きたいんだけど。

KH: リッキーが基本的にどういう人かというと、全部彼の責任ではないことですが、彼には本当に強い決意があって、絶望的な問題から家族を救い出すために宅配ドライバーとして働きます。一生懸命に。アビーも同じです。ただ彼は失敗するように仕組まれた罠にかかっただけなんです。映画が進むにつれそれがどんどんわかってきて、実際に最後のシーンはそういう積み重なった感情が、(リッキーではなく)役者としての私自身の頭に浮かびました。そうですね、まさに神経衰弱、精神の崩壊が起こったということです。それが現実なのだと思います。

34:07

PL: ちょっと言わせてください。ここに来る直前のことですけど、大分前、2年前に私が話を聞いたドライバーから2週間前に突然電話があったのです。彼は私の電話番号を持っていたので。彼はときどき働き過ぎだと思いながらずっと働いていたのですが、今度は別のひどいことが待っていました。今仕事があまりないから2週間休めと言われたのです。もちろん有給休暇ではありません、彼はフランチャイズの個人事業主ですから。彼も借金漬けです。彼は2週間も収入なしではやっていけないので、休むのは無理だと答えました。すると雇用側は彼の配送ルートを(もっと忙しい方へ)変えたのです。そんなことになったら生活は完全に立ち行かなくなります。彼は正気を失い、自殺まで考えたと言っていました。
 ここまであまり触れていませんでしたが、労働者たちは本当に散り散りに孤立させられているのです。本当に沢山の労働者がいるのですが、小さなグループに分断されているのです。1人がフランチャイズのドライバー5人を束ねる所もあれば1グループに40人いる所もあります。そういうかんじで国中に点在するわけです。ですから、労働組合がドライバーたちに接触しようと思っても所在が掴めず非常に難しいのです。雇用形態が短期間に全く変わってしまったのです。
 そしてその(電話をくれた)ドライバーは「もう死にたい、どうしていいかわからない」と言っていましたが、こういう場合みんな「労働組合に相談したか?」と訊くんですけど、彼らは孤立した状態で誰かと連絡を取り合うことすらできていないのです。
 実際のところ、このドライバーたちに出会うのもとても難しかったのです。例えば『ダニエル・ブレイク』の時には雇用年金省などの内部告発者に会うことができましたが、宅配ドライバーたちは本当にそれぞれ孤立した状態で自分のルートで配送をしているという状態で、1人で全ての責任を負って、とても孤独に仕事をしているのです。ですから、彼らの話を聴くのは本当に胸の張り裂ける思いです。そして、繰り返しますけど、権力の側は簡単にドライバーのルートを変えますが、それがドライバーの生活をめちゃくちゃにするということもわかってやるのです。 

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